無能化する帝国

一年前、2009年にもLarrabeeが出荷される可能性があると聞き
実際配布されたintelのロードマップにもLarrabeeが明記されていて
遂に訪れるPCの革命的なブレイクスルー到来に胸を躍らせたものだ

Larrabeeは簡単にいえばPS3のCellをx86互換にしたうえで
Cellでは8個だったヘテロジニアス・マルチコアを数百個にまで拡張するといった
CPU能力の基準を何桁も跳ね上げる夢のテクノロジーだった

しかし現在のロードマップにLarrabeeの名はない
そしてintelは秋に出荷するLynnfieldに命運をかけている

Lynnfieldは現在のCore-i7の1366個の端子を1156個にして
メモリを2チャンネルにするなどトータルコストを下げるものだが
そもそもはClarkdaleの様なGPU内蔵CPUという画期的な製品の筈であった

それならLGA1366の高性能CPUとLGA1156の高機能GPCPUという
とてもわかりやすくマーケットにも有益なラインナップとして理解出来る
Larrabeeへの流れにも矛盾しない綺麗なロードマップだ

しかし現実は全く異なったものとなった

おそらくintelはCPUにグラフィック機能を統合させることにも
ヘテロジニアス・マルチコアを商品化させることにも失敗したのだろう

しかしOEM向け営業戦略をリセットすることは簡単にはできない
マーケットは絶えず新しさを求めている
2年間も新製品がストップすれば世界中のPCメーカーは深刻な打撃を受ける
もちろんintel自身も赤字に転落してしまうだろう

なので商品の中身はほとんどが同じ内容のままで
名前だけ変えた商品投入の予定だけそのまま実行することになった

確かにLynnfieldにも良いところはある
シングルスレッドのプログラムが速く走ったり
メモリが2枚で済んだりするところだ

しかしこれは数年前に望まれていた
XPのソフトを速く実行させることには効果があるが
64bitOSで10Gbyteを超えるメモリとマルチスレッドを活用する
遂に始まった新世代のアプリケーションに逆行している
PhotoShopCS4や64bitDAWそして3Dや映像編集等の
コアなPCユーザーには後退を強いるものだ

Lynnfieldが当初の予定通りグラフィックを内蔵しているなら
安くて高性能な新しいPCマーケットを創出できた
そしてコアなユーザーにはLGA1366の高性能化を推し進め
ヘキサコアのGruftownにつなげ
PCではなくワークステーションと呼べるマーケットを創出し
LGA1156とLGA1366は互いに補完関係を築けた
「使う人」と「作る人」向けに最適化されたPCマーケットだ

しかし今向かおうとしている道は
LGA1156を立ち上げるためにLGA1366を潰すという無益な発想で
しかもLGA1156は当初予定のGPU内蔵CPUである
Clarkdaleが完成すればLGA1155にしてLGA1156も潰すという
しかもClarkdaleがどの程度の能力を持つかは未知数なままだし
いつ市販されるかさえ怪しい

なんだか末期の自民党を想起させる
顔だけ挿げ替えていくが
中身はどんどんアホになっていって
遂には自己崩壊してゆく

結局intelは開発能力が著しく落ちているのだと感じる
たまたまイスラエルチームがNehalemを作り上げ王座を確保できたが
中身はAthlonに追いまくられてDELLとの契約まで切られた頃と変わっていない

技術者であった創業グループが引退し営業や財務チームに掌握されたハイテク企業
成功したXPのイメージを最新のWindows7に重ねることに躍起なMSとよく似ている
64bitの時代にWindows7の売りがXPとの互換性だったり小さなメモリで動くことだったりするのと
Lynnfieldのメモリ2枚差し(つまり4Gbyte)やシングルスレッドの強化はぴったり重なる

これらはネットブックには都合のよいことばかりだ
世界のほとんどの人は64bitを必要としていない

しかし突き詰めて考えれば
世界のほとんどの人はintelMicroSoftにこだわっていない
ちゃんと同じことができて安いのなら
CPUやOSのメーカーはどうでもいい
携帯電話は極めて重要な機器であっても
それがどんなCPUやOSで動いているどころか
どこの会社の製品かさえほとんどの人は知らないし気にしてもいない

PCこそが唯一intelMicroSoftというブランドを活かせるマーケットなのに
PCを携帯並みに安く簡単にすることばかりに力を注いでいる気がするが
それが根本的な開発力や技術力の低下を補うために行われているのだとしたら
極めて危機的な状況だと感じる

PS3Wiiの対比を思い浮かべればわかりやすいが
最近は性能にこだわると失敗するというイメージが定着しつつある
世界一速いより燃費が良く環境に優しいエコカーが売れる
ペットのように飼いやすい草食男子がもてはやされる

しかし未来があるならそこに辿り着くには必ず戦いがあり
必要とされるのは力や能力つまり技術や性能だと思う

Atomならマーケット創出という意味も見えるが
Lynnfieldには落胆とPCへの期待の消失以外今は見えない
しかしPC業界はここに賭けている

まぁ強者が失敗する時代には必ず成功のチャンスが現れるから
そこに食いつく以外ない
何があってもPCのマーケットが無くなることはありえない
まぁそれが今PCと呼ばれているものかどうかはわからないけれど・・・